稀勢の里、中卒たたき上げの信念…担当記者が見た第72代横綱

スポーツ報知
奉納土俵入りする稀勢の里

 日本相撲協会は16日、理事会を開き、第72代横綱・稀勢の里(32)=田子ノ浦=の現役引退と年寄「荒磯」襲名を承認した。稀勢の里は両国国技館で会見し、17年間の土俵人生に「一片の悔いもありません」と涙。19年ぶりの日本出身横綱として絶大な人気を誇ったが、左大胸筋などのけがに苦しみ在位はわずか12場所だった。稀勢の里の引退に際して、担当記者が「見た」で振り返った。

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 稀勢の里は、今では数少なくなった中卒たたき上げの一人だった。かつて、そのプライドを垣間見たことがあった。2013年の冬巡業、当時大関の稀勢の里は中学横綱に胸を出した。稽古後、彼が高校に進学することを聞くと「今の子はあまり焦らないんだね。(自分は)早く強くなりたかったので。今、入った方が味が出ると思うんだけどなあ」と残念がった。

 さらに「やはり勉強と相撲の半々なら(相撲を)やった方がいいと思った。(進学した同学年を)うらやましいとは思わなかった。好きなことをやっているわけだからね。文句を言っちゃだめ」と持論を口にした。中卒で入門することには賛否両論あるだろう。稀勢の里も時代背景が異なることは理解しており「昔とは状況も違うし、周囲は不安があるんだろうね」とも話した。ただ、自らが歩んできた道には、強い自尊心を持っているようだった。

 同じ巡業中、稀勢の里は双葉山らの現役時代を集めた映像を食い入るように見ていた。伝説の69連勝を飾った大横綱の動きに「腰のぶつけ方とか半端じゃない。芯がしっかりしている。これが(双葉山の極意の)後の先。自然と(得意の形に)なっちゃうんだろうなあ。土俵入りも本当に自然体。すごいね」。少年のように目を輝かせて話す姿に、相撲道への真摯(しんし)な思いを感じた。

 それから約3年後に横綱昇進。本格的な相撲経験がないたたき上げが頂点を極めた。しこ名の通り、昨今では稀(まれ)な存在だった。晩年はけがに苦しみ思うような結果を残せず、計り知れない重圧もあっただろう。それでも引退会見で語った「絶対逃げない」という信念を貫き通した姿は立派だった。(10~15年相撲担当・三須 慶太)

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