白鵬の連勝「63」で止めた深い師弟愛…担当記者が見た稀勢の里

スポーツ報知
10年九州場所2日目、寄り切りで横綱・白鵬(左)を破った東前頭筆頭・稀勢の里

 日本相撲協会は16日、理事会を開き、第72代横綱・稀勢の里(32)=田子ノ浦=の現役引退と年寄「荒磯」襲名を承認した。稀勢の里は両国国技館で会見し、17年間の土俵人生に「一片の悔いもありません」と涙。19年ぶりの日本出身横綱として絶大な人気を誇ったが、左大胸筋などのけがに苦しみ在位はわずか12場所だった。稀勢の里の引退に際して、担当記者が「見た」で振り返った。

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 2010年の九州場所。歴史的な取組の取材を終えると、相撲担当キャップから「師匠の反応を取るため宿舎へ行ってくれ」と指示され、福岡国際センターを飛び出した。私は連勝街道を突っ走る白鵬の「対戦相手」の取材を任されていた。初日の栃ノ心に続き、2日目に迎えたのが稀勢の里。中日にも達成される「双葉山の69連勝超え」に向け、相性も含めて「ここがヤマ場」とみられていた平幕力士が連勝を「63」で止め、興奮を覚えながら宿舎に到着した。

 大勢の報道陣が詰め掛けていると思っていたが、いたのは私だけ。若い衆に通された鳴戸親方(元横綱・隆の里)の部屋では、ちゃんこの大鍋がグツグツ煮える音が耳に入ってきた。時間は午後7時20分過ぎ。正式な相撲担当ではない私にも約15分、丁寧に話をしてくれた。この日の朝稽古後には、弟子に対して「何も伝えていない」と話していた。少し引っ掛かっていたので、再び尋ねると「実は」と、5つの助言を送ったことを明かしてくれた。

 〈1〉立ち合いの入り方

 〈2〉引きたくなっても押し続けろ

 〈3〉自信を持て

 〈4〉自分自身を鼓舞しろ

 〈5〉取組後は何があっても謙虚な姿勢を忘れるな

 思わぬ“裏話”に心が躍った。取材を終え、親方から「ちゃんこ食べるか」と誘われたが「原稿を送らないといけません」と丁重に断り部屋を出た。後から聞けば“幻”とも呼ばれた鳴戸部屋のちゃんこ。千載一遇の機会は逃したが、後悔はない。その後、2回の優勝でも、おごることなく謙虚さを持ち続けた横綱を見て、そう思う。先代師匠の持つ言葉の重みと、それを愚直に実行してきた稀勢の里の間には深い師弟愛があった。(10~11年相撲取材・秋山 剛志)

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