東名あおり運転事故で求刑23年 停車後に「危険運転致死傷罪」適用されるか

スポーツ報知

 神奈川県大井町の東名高速道路で昨年6月、あおり運転を受け無理やり停車させられた静岡市の萩山嘉久さん(当時45)と妻の友香さん(当時39)の車が別のトラックに追突され死亡した事故で、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)などの罪に問われた石橋和歩被告(26)の裁判員裁判が10日、横浜地裁(深沢茂之裁判長)で結審した。検察側は懲役23年を求刑。弁護側は同罪は成立しないと主張した。判決は14日午前11時に言い渡される。

 懲役23年という気の遠くなるような数字を聞いても、微動だにしなかった。これまで同様、黒のジャージー姿で出廷した石橋被告。求刑の際にも目の前の机に片肘をつき、手元の資料に視線を落としたままだった。

 運転中の行為に対する処罰を前提とした危険運転致死傷罪が、停車後の事故に適用されるかどうかが、最大の争点。地裁の判断が注目される中、検察側は危険運転の構成要件である「重大な危険が生じる速度」に、停車も含まれると主張している。

 また、検察側は同罪が認められない場合も考慮し、「(夫婦が)その場所から脱出することはできなかった」として、監禁致死傷罪を、犯罪事実が複数の罪になると考えられる場合に用いる「予備的訴因」とした。両罪はいずれも法定刑の上限が懲役20年で、他に起訴した強要未遂罪など3件も含め、「執拗(しつよう)かつ悪質だ」として懲役23年を相当とした。

 一方、弁護側は最終弁論で「あおり運転による進路妨害行為の危険は、停車させたことで終わっている」と強調。予備的訴因にも「被告に監禁の意図はなかった」とし、「法解釈を曲げて処罰してはならない」と両罪の成立を争う姿勢を見せた上で「既に社会的制裁を受けている」と情状酌量を求めた。

 論告に先立つ意見陳述では、嘉久さんの母・文子さん(78)が「自分が生きている間は、被告が外を歩くのは許せない」と厳罰を望んだ。また、検察官は夫婦の長女(17)の「家族みんなで死んでしまえば良かったと何度も思う」との意見を代読。悲痛な訴えが法廷内に響いたが、それでも石橋被告は、検察官やその後ろに座る遺族を見ることは一度もなかった。

 石橋被告は、最終意見陳述では用意した文章を朗読。「自分がされたら嫌なことを他の人にしません」「社会のルールを守ります」などと書かれた300文字に満たない反省の言葉を連ねて淡々と読み上げ、「本当に申し訳ありません。石橋和歩」と名前を告げて締めくくった。

 ◆東名高速あおり事故 2017年6月5日夜、神奈川県中井町の中井パーキングエリアで、男性に駐車の仕方を注意された石橋和歩被告が、同県大井町の東名高速道路下り線の追い越し車線に男性ら一家4人が乗るワゴン車を停車させ、大型トラックが追突して夫婦が死亡、娘2人がけがをした事故。検察側によると石橋被告が夫婦の車の前に割り込み、車間4~5メートルに接近するまで減速。複数回車線変更をさせ、32秒後に無理やり停車させた。

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