児童養護施設「箱根恵明学園」“最後の箱根” 70年沿道で応援も移転、駅伝目指す選手も

スポーツ報知
恵明学園の園長・田崎吾郎さん

 2日に東洋大が2年連続の往路優勝を決めた箱根駅伝。その5区のコース沿いにあり、70年にわたって選手たちを励ましてきた児童養護施設「箱根恵明学園」(神奈川県箱根町)にとって、今年は“最後の箱根”となる。施設の老朽化などで、春にも建物を取り壊すことが既に決定。新しい移転先は、国道1号線から徒歩で5分ほど離れた場所となるためだ。田崎吾郎園長(65)は「寂しい気持ちはありますが、来年以降も違った形で子供たちと声援を送りたい」と誓った。(高柳 哲人)

 駅伝中継を見たことがある人なら知っている人も多いだろう。5区の小涌園を過ぎて間もなくの13キロ地点、急坂のカーブにあるグラウンドの前で毎年、学園の子供たちが選手に声援を送っている。実質的なラストとなる3日の復路を前に、この日も選手の名前を呼んだり「頑張れ~」と叫ぶ声が、箱根の山に響き渡った。

 現在は2歳から高校3年までの47人が生活をする「箱根恵明学園」は、1949年11月に同所に開園。翌50年から、70年にわたり選手たちを励ましてきた。「開園当時、施設にいた多くは戦争孤児でした。子供たちは、正月でも行く場所がない。そこで『正月行事』として応援をするようになったのが始まりと聞いています」と田崎さん。現在は里親などと過ごす子供たちもいるそうだが、毎年半数程度は学園で年越しをする。年長の子供たちが幼児に小旗を手渡し、一緒に応援する姿には、ほほ笑ましさを感じる。

 中継などで紹介されたことで「箱根恵明学園」の名は有名に。全国から寄付が寄せられるようにもなったほか、田崎さんによると「卒園生たちが学園の名前を聞くことで懐かしみ、『頑張ろう』という気持ちになってくれるようです」と様々な“プラス効果”があったが、学園内にある小学校の校舎を中心に建物が老朽化。建て替えには様々な制約がかかることから、春以降に同所から約1・5キロ離れた、旧温泉小学校の校舎へと「引っ越し」をする。

 新施設はこれまでと異なり、駅伝コースには面していない。近くの宮ノ下温泉は一般ファンにも人気のある応援場所のため、現在のようにお手製の看板を作ったり、学園全体で固まって応援をするのは難しくなる。だが、田崎さんは「ここには、様々な事情で生きることが精いっぱいの子供たちがいる。駅伝はその子供たちに感動や勇気をくれるんです」と、何らかの形で続けていきたいと考えている。

  *  *  *

 学園には、箱根のランナーたちの姿を見て、「いつかは自分も…」と思いをはせる生徒たちもいる。

 高校2年の中澤祐也君は、生観戦をした時に興味を持つようになった。「下りの人(6区)の歩幅の広さに驚いて」。陸上部には長距離選手として所属。「3代目山の神」こと神野大地の走りが特に印象に残っているそうで「下りは好きじゃないし、いつもここで練習しているので、5区で走ってみたい」と目を輝かせた。

 「沿道で見ていて、スピードと迫力がすごかった」と、箱根との出会いを振り返る中学3年の細井裕生君も陸上部の長距離選手。「タスキをつないで全員で走るというところが駅伝の好きなところ。また、それを声を合わせて応援するのも楽しい」といい、「ここで見られるのは最後で残念だけど、移転先でもしっかりみんなで応援したい」。また、移転と共に学園を卒業し、大学に進学予定の高校3年・杉本響佑君も「どこの区でもいいから、箱根駅伝で走ってみたい」と夢を語っていた。

社会