ゴーン被告、作業服姿で保釈 眼鏡にマスク 日産でなくスズキの軽自動車で移動

スポーツ報知
作業服姿で東京拘置所を出るカルロス・ゴーン被告

 会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告(64)が6日、保釈保証金10億円を納付し、東京拘置所(東京・葛飾区)から保釈された。昨年11月19日の逮捕以来、108日ぶりに姿を見せたゴーン被告は、まさかの作業服姿。報道陣があっけにとられる中、待機していた軽ワゴン車に乗り込み、都内の弁護人事務所に移動する前代未聞の“変装脱出劇”を繰り広げた。

 ゴーン被告の妻子とみられる人物が拘置所に到着してから約1時間後。一般面会者の姿が見えなくなった午後4時半、拘置所の玄関から不自然な一団が姿を見せた。囲まれているのは、反射テープの付いた作業服を着用し、青い帽子に白マスク姿の眼鏡をかけた男性。200人以上の報道陣のほとんどが「まさかね…」と思ったその男性こそ、変装したゴーン被告だった。

 戸惑いながらもシャッターを切るカメラマンのフラッシュを気にすることなく、ゴーン被告は移動車両の「本命」と目されていた黒のワゴン車の前に止められた、日産でもルノーでも三菱でもない、スズキの軽ワゴン車の後部座席に乗り込んだ。

 「あれ、ゴーン被告じゃない?」「変装してるんじゃ…」。ざわめく報道陣を横目に、黒のワゴン車は全く発車するそぶりがない。「もしかしてシルバーの方か?」。その後、作業服姿の男性がゴーン被告だったと判明すると、カメラマンからは「そこまでやるか!」とため息が。追跡のため用意されたオートバイは、数分遅れて全15台ほどのうち半数があわてて出発した。

 約1時間後、シルバーの軽ワゴン車は、千代田区内にある弁護人の事務所へ。車を降りたゴーン被告は帽子やマスクを外していたが、やつれたようにも見えた。

 軽ワゴン車は「春日部」ナンバー。後部座席に段ボールが積まれ、屋根には脚立が載せられていた。同乗した運転手ら2人も作業服姿で、工事関係者を装う念の入れよう。車体には「塗装・防水」などとうたった会社のステッカーが貼られていたが、こちらは埼玉県内に実在する会社のものだった。

 関係者によると、変装は弁護団の提案。作業服も保釈に合わせて差し入れられたとみられる。法曹関係者は「前代未聞。これまで聞いたことがない」と驚きを隠せなかった。元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「どういう意図があるのか、理解に苦しみますね」と疑問を呈した。

 争点を絞り込む公判前整理手続きの開始前に、起訴内容を否認しているゴーン被告が保釈されたのは異例。それが認められたのは、保釈後は都内に住み、住居の出入り口に監視カメラを設置するなどの厳しい条件の下で生活することを、弁護人の弘中惇一郎弁護士が提示したことが大きい。若狭氏は「それが、今日のように変装してみせるとなると『保釈中も変装してカメラの目を盗み出掛けるのでは』と、痛くもない腹を探られますから」とデメリットしかないと強調した。

 今後、ゴーン被告は「無罪請負人」とも呼ばれる弘中弁護士を中心に、公判対策を本格化させる。自分の役員報酬を少なく記載した金融商品取引法違反、金融商品の評価損を会社に付け替えた会社法違反について無罪を主張しており、闘いの場は法廷に移る。

 ◆上下で3000円

 ゴーン被告が着用していた作業服は、新品のようにピカピカだった。都内の作業服関連会社によると、同様のもので一番安いものは、ポリエステル100%の製品。上下合わせて計3000円ほどだという。高額のものだと綿100%となり、上は4900円、ズボンは3000円台のものが主流だという。いずれにしてもそれほど高価ではないとみられ、いつもの高級スーツ姿とは180度違うイメージでの保釈劇となった。

 ◆ベテラン報道陣も見破れず

 まさかの変装保釈劇に、取材していたあるベテラン雑誌ライターは「何回も拘置所を出る人の現場を見ているが、あんな変装は見たことがない。コソコソするとネットとかで叩かれるので、特に最近はないですよね」と驚いた。

 あるベテランカメラマンは、マスク&作業服姿のゴーン被告の撮影画像を片手に「これ、ホントにゴーンさん? 作業員姿がハマリすぎて本人かどうか分かんないよ~。目しか出てないし」と変装を見破れなかったことを嘆いた。周囲に確認して間違いないと確信すると、「じゃあ、今さっき出発した作業車みたいので出たんじゃ…」とぽつり。「変装のうえに(車も)偽装で出るって、準備が周到すぎる」としてやられた様子だった。

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