サッカーの聖地Jヴィレッジ、新芝で再出発「今がスタートライン」

スポーツ報知
Jヴィレッジの芝生の管理を担う齊藤健ターフマネジャー

 2万人を超える犠牲者を出した東日本大震災の発生から11日で8年を迎えた。東京電力福島第1原発事故の対応拠点となった施設「Jヴィレッジ」(福島県楢葉町・広野町)は4月20日に全面再開し、2020年東京五輪の聖火リレー出発地点となる方向だ。芝生の管理を担う齊藤健(たけし)ターフマネジャー(44)は「今がスタートライン」と語る。

 青々と広がるピッチに立って、齊藤さんは語る。「4・20の全面再開が『復興』とは言えません。僕が口にするのはおこがましいですけど、復興という言葉を調べると『繁栄を取り戻すこと』なんですね。失ったものを原状回復するだけじゃなくて。人のにぎわいがずっと続くぐらいにならないと復興したとは言えないんでしょう」。美しいフィールドを取り戻しても、視線は先を見据える。

 サッカーの聖地とも言われるJヴィレッジの所在地は福島第1原発から約20キロ。事故発生後は作業員たちの前線拠点になった。合宿などで日本代表イレブンが駆けたピッチには砂利やアスファルトが敷き詰められ、駐車場やヘリポートに姿を変えた。

 過去20年、Jリーグ各クラブのスタジアムや練習拠点の芝生管理を続けてきた齊藤さんが着任したのは昨年5月。同7月28日の一部再開への最終局面を担った。「ピッチを見て…理想の状態にするのは大変だと思いました」。しかし、あえて目指したのは原状回復でなく改良と改善。今までは寒冷地を理由に冬芝のみを使用してきたフィールドに夏芝を加えた。「温暖化傾向と成育技術の進化があるので、関東と同じように育てられるんじゃないかと考えたんです」

 年間を通してより美しく、よりクオリティーの高い環境を整備。今後、国内では異例の完全無農薬での芝生成育を目指す。「成果を出せば認められるはず」。不安や気苦労は絶えず「肥料の量を間違えれば、一日で枯れたりします」と明かす。「産地や時期が変われば十人十色。今、8面(のフィールド)を見ているので8人の子供を育てているのと一緒です。泣く子もいれば、おなかをすかせる子もいますよ」

 全面再開を前に吉報も伝わった。東京五輪大会組織委はJヴィレッジを聖火リレーの出発点とすることで最終調整に入っている。来年3月26日のリレーの第一歩は当然、芝生の上からになるだろう。「冬の名残がある季節ですね…今から胃が痛くなります。未来ある若者に走ってほしいです」。世界も注目するスタートの合図は、復興への確かな前進になる。(北野 新太)

 ◆再開と同時に「Jヴィレッジ駅」開業

 全面再開する4月20日、JR常磐線の臨時駅「Jヴィレッジ駅」がスタジアム前に開業する。同日、震災後初となるなでしこリーグの試合「マイナビ仙台対千葉」が行われるため、さっそくサポーターが使用することになる。当面は1日数本の停車となるが、JR東日本管内では初めてアルファベット名が含まれる駅となるだけに鉄道ファンの注目も集めそうだ。常磐線は来年3月、富岡―浪江間が復旧して全線再開予定。

 ◆Jヴィレッジ 1997年に開設された日本初のサッカーナショナルトレーニングセンター。施設面積は49万平方メートル。5000人収容可能な観客席付きスタジアムを含む全10面(天然芝8、人工芝2)のサッカー場をはじめ、全天候型のサッカー練習場やフィットネスジム、宿泊施設などを有する。サッカー日本代表の合宿施設となったほか、日本サッカー協会の育成学校「JFAアカデミー福島」の拠点、なでしこリーグTEPCOマリーゼ」のホームスタジアム(~2010年)として使用。東日本大震災のため閉鎖された11年3月までに累計680万人が来場した。18年7月から一部施設の使用が再開された。

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