•  スポーツ報知のWebサイト限定コラムがスタートしました。最前線で取材する記者が、紙面では書き切れなかった裏話や、今話題となっている旬な出来事を深く掘り下げてお届けします。皆さんを「ほーっ!」とうならせるようなコラムを目指して日々配信しますので、どうぞお楽しみください。

「みんなで取った金メダル」辻村深月さんにとっての本屋大賞は現場からの信頼の賞

2018年4月10日21時8分  スポーツ報知
  • 受賞発表セレモニーで書店員たちから祝福された辻村深月さん

 出版業界の活性化のため、全国の書店員が最も売りたい本を投票で選ぶ「2018 本屋大賞」が10日、発表された。受賞作は直木賞作家・辻村深月さん(38)の「かがみの孤城」(ポプラ社)。15周年記念の今回は、全国504店の書店から665人が参加した。

 盛大な受賞発表セレモニーで、辻村さんは書店員たちに祝福されながら登壇した。コメントはとても機知に富んだものだった。「今回の受賞が金メダルだとしたら個人技ではなくて、カーリングのようなもの。私がショットの担当で、書店員の皆さんがいい位置にストーンを運んでくれた。みんなで取った金メダルだと思います」

 辻村さんは2012年に「鍵のない夢を見る」で、エンターティメント小説への最高峰の文芸賞、直木賞を受賞している。だが、今回は全く違った感慨があるようだ。直木賞は選考委員の作家たちが、期待を込めて贈る賞だが、本屋大賞はまさに本の「現場」の声が反映される。トロフィーを手にした辻村さんは「作家に対する信頼の賞だと思います」としみじみ振り返った。

 作品は、不登校になってしまった中学1年生の少女「こころ」を主人公にしたもの。ある出来事が起きて学校へ行けなくなってしまう。ある日、家の中の鏡が光る。鏡の中の世界に入ると、城があり、「こころ」は似たような境遇の子どもたちと遭遇する。そこから彼女たちの冒険が始まる―。

 大人になった現在の自分と、子どもだった頃の自分は、価値観も、ものの考え方も違って当然だ。作品のテーマは、大人の視点と子どもの視点の共存だ。ファンタジーでもあり、ミステリーでもあり、青春小説やSFでもある。絶望の中から希望を見出すストーリーは感動的で、特に人間への厚い信頼を感じさせるエピローグは涙を誘う。辻村さん本人はラストの部分をアニメーションのイメージでつづっていたという。

 学校や職場、家庭に居場所がないと感じる人は、どの世代にもいるだろう。辻村さんは、そんな人たちにも希望を持って欲しいという願いを作品に込めた。

 辻村さんは「この本はバトンだと思う。『本屋大賞』の帯を巻かせていただいて、次の誰かにこの気持ちをつなげてくれたらうれしいです」。老若男女、幅広く共感を呼ぶ作品。お勧めです。

(記者コラム 甲斐毅彦)

コラム
注目トピック