【BOOKセレクト】大田嘉仁著「JALの奇跡 稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの」

2018年11月3日12時0分  スポーツ報知
  • 日本航空で社員の意識改革を進める上での苦難を振り返った大田嘉仁さん

 日本航空は経営不振から2010年1月に会社更生法の適用を申請したが、驚異的な業績回復で12年9月に東証に再上場した。窮地を救ったのは、会長として日航に乗り込んだ京セラ創業者の稲盛和夫氏(86)=現・京セラ名誉会長=。その“懐刀”として会長補佐を務めた大田嘉仁さん(64)が「JALの奇跡 稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの」(致知出版社、1728円)を出版した。本書を読めば、奇跡は「起こるもの」ではなく「起こすもの」だと分かるはずだ。(高柳 哲人)

 ナショナルフラッグキャリアとして国内外の空を飛び回っていたJALの航空機。ただ、その中で働く人たちは赤字を積み上げ続ける会社への不信と葛藤を胸にもがいていた。10年に約2兆3000億円の負債を抱えて倒産。その立て直しに稲盛氏と共に「意識改革担当」として乗り込んだのが大田さんだった。

 「企業の再建物語」は、書籍だけでなく、テレビのドキュメンタリーなどでもよく描かれる題材。ただ、本書は単に経緯をつづっただけではない。前半3分の1を稲盛氏による経営哲学の解説に費やし、後半でJALにおいてその哲学がどのように生かされたかが書かれている。いわば「基本編」と「応用編」の形式を取っている。

 「稲盛さんとは同郷(鹿児島県出身)なのですが、よく『年齢も離れているのに、なぜ側近を務めているのか』と聞かれることがあります。そこでまず、2人の関係の経緯を説明すると同時に、私がそばにいて学び、知り得た稲盛さんの考え方を書くことが重要だと思いました。それを知っていただければ、なぜJALが復活したのか理解しやすいと考えたのです」

 稲盛氏の経営に対する考え方を端的に説明するものに「成功方程式」がある。これは「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」で表されるもので、考え方はマイナス100点~プラス100点、熱意と能力に関しては0~100点まで点数化する。つまり、熱意と能力がどれだけ高かったとしても、考え方がマイナスであれば結果もマイナスになるという図式だ。

 「稲盛さんと私がJALに行った時には、申し訳ありませんが幹部の方は考え方がマイナスだと感じました。『悪いのは国、そして会社』と決めつけていた。ただ、マイナスをプラスにする要素は持っていたと思います。一方、一般社員の方たちは3要素とも高いものがあったかと思いますが、幹部がマイナスなので、いい方向に働いていない状態でした」

 人材はいるのに、全く生かされていない。改革に必要不可欠なのは技術や能力の向上よりも、心の問題だった。そこで大田さんが取り組んだのが、社長を巻き込んでの「リーダー教育」。すでに一定の地位があり、プライドを持つ幹部たちを教育することは困難の連続だったが、「『一方的な信頼感』が自分を支えていたのでは」とみている。

 「部下が5人手伝ってくれていたのですが、彼らは皆不安がって『うまくいかない。やめましょう』と私に言って来ました。そんな時、私はある意味、口から出まかせで『絶対に成功する。うまくいって取材も殺到するよ』と言い聞かせたんです。今考えると、なぜそう言えたのか不思議なのですが、『時間がない』という気持ちと同時に『JALの社員であれば、できないはずがない』とずっと信じていました」

 「会長補佐」という肩書を生かし、時には強引に進めていった意識改革は、徐々に成果を出し始める。それを実感したのが、ある幹部の言葉を聞いた時のことだったという。

 「『うちの会社はソフトウェア、ハードウェアは二流かもしれないが、ヒューマンウェアは最強だ』と話したんです。その言葉を聞いた時に『稲盛さんと私がしてきたことは間違ってはいなかった。それが結果に結び付いたんだ』と思いましたね」

 サービス業には門外漢の稲盛氏が、予想を上回るスピードで再建を実現したことは、まさにタイトル通り「奇跡」ともいえる。ただ、奇跡は指をくわえて待っていてもやって来ない。それこそが、本書を通じて伝えたいことだと大田さんは力説する。

 「奇跡は起こるのではなく、人間が起こすものであるということ。そして、奇跡には理由があるし、説明もできるということです。その奇跡を起こすことができた理由は、一言でいうならば『助け合う』ことをしたから。口先だけでなく、仲間のために頑張る。ある意味、当たり前のことなんです。でも、人間は心が弱かったりしてなかなかそれができないんですね。そこを、この本を読むことで一歩踏み出してもらえたらと思います」

 ◆大田 嘉仁(おおた・よしひと)1954年6月26日、鹿児島市生まれ。64歳。78年に立命大卒業後、京セラに入社。90年、米ジョージ・ワシントン大に留学し、MBA取得。91年から創業者・稲盛和夫氏の秘書を務め、秘書室長、取締役執行役員常務などを経て2010年12月に日本航空会長補佐・専務執行役員に就任。15年12月、京セラコミュニケーションシステム代表取締役会長、17年4月に同社顧問。18年3月、退任。現在は日本産業推進機構特別顧問などを務める。趣味は旅行。

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