入浴時間3分、トイレで予習…厳格ルールを漫画で解剖「賢者の学び舎 防衛医科大学物語」

2018年11月10日12時0分  スポーツ報知
  • 「顔を出すのは遠慮させていただきます」と第1巻の単行本で顔を隠した山本亜季さん

 医科幹部自衛官の養成機関として、埼玉県所沢市にある防衛医科大学校を舞台に学生たちの青春を描き、青年誌「ビッグコミックスペリオール」に連載中の漫画「賢者の学び舎 防衛医科大学校物語」の第2巻(小学館、638円)が先月30日に発売された。なかなかのぞくことのできない“キャンパスライフ”は驚きの連続だが、著者の山本亜季さん(年齢非公表)は、防衛医大のことをもっと知ってもらいたいのと同時に、「理想の医師像」についても描いていきたいと考えているという。(高柳 哲人)

 先輩の合格が出るまでアイロンがけを繰り返す、入浴時間は3分だけ、同室の先輩に迷惑をかけないため、トイレで翌日の予習をする―。山本さんが「時代によって内容はさまざまのようですが、取材で聞いた話をもとにしています」と話す、信じられないようなルールや習慣が次々と作品内に登場する「賢者―」。その舞台である防衛医大の存在を知ったのは、2年ほど前に知人から誘われ、学園祭(並木祭)に足を運んだのがきっかけだった。

 「ミスコンのようなイベントがあったのですが出場していた見た目きゃしゃな女子学生が男子学生をヒョイと持ち上げたんです。それを見て『エッ?』と。そこから『どんな学校なんだろう』と興味を持って取材を始めました」

 ちょうどその当時、医師や医大生が不祥事を起こして報道される様子を見て「医師って何?」と考えていたことも作品に取りかかる後押しとなったという。

 「他の職業の人たちと比べると、同じような事件でも医師や医大生はずっとセンセーショナルに報じられるし、バッシングも強烈。それはなぜなんだろうと考える中で、『医師には体を治してくれる人という期待があって、その裏返しなのかな』と感じました。だとしたら『どんな人に医師になってもらいたいんだろう?』というテーマで漫画を描けると思ったんです」

 単行本の最終ページには「What makes a good doctor? ―私たちはどんなひとに医師であってほしいのか―」という言葉が書かれている。これこそが、作品のテーマであり、その舞台として防衛医大を選んだ。

 「ただ、『医師というのは、こうでなければいけない』と押しつけにならないように常に意識しています。私が、それを言える立場ではないので。とはいえ、よく医師の理想像を描いたものとして『赤ひげ』が挙げられますが、現代でも果たしてそうなのか、21世紀の医師像があってもいいのでは…。そうだとしたら、それはどんなものなのか? と考えながら描いています」

 学内では学生に朝から晩まで密着取材を行い、一日をどのように暮らすのかを取材。その中で何を学んでいるのか、他の学生とどのような会話を交わしているのかを観察した。また、学校OBや指導官にも話を聞いた。

 「一番驚かされたのは、学生の方が皆、想像以上に『社会のために』としっかり考えていたこと。今まで、その世代の人たち以外も含め、自分以外の社会のことを真面目に考えている人に触れたことがなかったので。彼ら、彼女らには、常に尊敬の念を持っています」

 それだけに、学内の厳しさもリアリティーをもってきちんと描かなければいけないとも思った。

 「もちろん、パワハラにあたるようなことは行われてはいませんが、漫画の中にある上下関係などを見ても分かるように、厳格な部分はあります。読んだ方が『楽しい学校』と思うような表現はうそになってしまいますし、それは学生の方々に失礼でもある。事実を描く中で、在学生や入学を考えている人たちを応援したいという気持ちですね」

 ちなみに、作品には主人公・真木賢人の父親と再婚したイラン人の女子学生・伊奈波ハナレがヒロインとして描かれている。関係者には「現実ではありえない」と“ツッコミ”も入ったそうだが、漫画らしい楽しさに加えて「外部からの目」を入れるために登場させたという。

 「日本のために自衛官の方が働いている中で、それを冷静に外から見るという視点を入れることは、ストーリーを作っていく上で外せないと考えました。それに、防衛医大にはさまざまなバックグラウンドを持つ人たちが集まっているんだということも伝えたかった。この作品が、単なる『お仕事漫画』だったら、ハナレの存在はいらないと思いますが、そうはしたくなかったので」

 物語は現在、入学後に先輩や指導官からさまざまな洗礼を受けた真木らが、本格的な学生生活を送り始めた。今後は、どのような展開になっていくのだろうか。

 「彼ら、彼女らは社会のために真剣に学んでいるのはもちろんですが、一方でその年代特有の個性ももちろん持っている。例えば体育祭では女子学生は普段とは違い髪形が自由だそうで、思いっきりおしゃれして参加していました。普通の大学生と変わらない子たちが、どのようなことを考えて学んでいるのかを伝えられればと思っています」

 ◆山本 亜季(やまもと・あき)東京都生まれ。幼少期に相原コージさんの「かってにシロクマ」で漫画に興味を持つ。大学在学中に投稿した作品で注目され、2015年にビッグコミックスペリオールの「ヒューマニタス」でデビュー。趣味は演劇観賞で、特に大衆演劇と劇団☆新感線のファン。好きな小説は「盤上の夜」(宮内悠介著)、最近気になっているのはネットフリックスのリアリティー番組「クィア・アイ」。

 ◆防衛医科大学校 1973年に医科幹部自衛官の養成と医官の訓練を目的として開設。学生は防衛省の職員という身分で、入学金や授業料がかからないほか学生手当(給料)が毎月支給される。ただし、卒業後は医学科(1学年80人)は9年間、医官として自衛隊に勤務する義務があり、離職する場合は卒業までの経費を償還しなければならない。

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