巨人・原監督、代表とは未知楽しむ選手 柔道・井上監督、伝統とは変えていくもの…スペシャル対談(後編)

スポーツ報知
対談を行い巨人・原監督(右)とグータッチする柔道・井上日本代表監督

 巨人・原辰徳監督(60)と柔道男子日本代表の井上康生監督(40)のスペシャル対談後編は、「日本代表」について熱く語った。選考する際に大切にしていることは何か、から始まり、最後は「伝統」についても言及。2019年を戦い抜く上で互いにエールも交換した。(取材・構成=太田 倫、林 直史、高田 健介)

 《前編 巨人・原監督から柔道男子・井上康生監督へ「監督の武器は言葉」スペシャル対談

 重圧と付き合うコツ、極意のようなものも、2人にはあるのだろうか。

 井上監督「一番苦しい心境になるのはやっぱり選考の時。柔道の場合は、やはり世界で勝つ選手をどう選ぶか。勝った者、結果を残している者が選ばれる世界ですが、過程では、みんなが夢や目標に向かって死に物狂いで戦っているのを何年も見ている。それを1名に絞るつらさ。監督になった時にいろんなことを想定して覚悟を決めたが、こんなに大変なものなのかと」

 原監督「選ぶ作業はとても難しい。選ぶというのは非常に体のいい言葉で、やっぱり淘汰(とうた)するということでもある。自分を信じるしかない。そして選んだ人を信用するしかない。日本代表の選手にはそんじょそこらの人はなれない。プレッシャーとか緊張は、ステージが上がれば大きくなるのは当たり前。しかし、火事場のバカ力じゃないけど、思ってもいないような力が出るケースもある。そういうことを信じて、意気に感じ、未知の世界を逆に楽しめるように思えれば大丈夫ですよ」

 井上監督「今の環境にプレッシャーを感じて、逃げたい、嫌だともちろん思うんですけど、だったら辞めろ、って話なんです。監督なんか引き受ける必要はない。だから私の中では今の環境を受け止めるしかない。プレッシャーがかかり、みんなから期待しているよと言われる、そういうことは想定内じゃないですけど、受け止めることが大事。これほど生きがい、やりがいを感じて戦えることもないかもしれない。いい意味で遊び心じゃないけど、楽しんでやることも忘れずにやるようにしています」

 原監督「日本代表監督、12球団の監督は、やらせてくださいといってやった人なんか誰もいないと思う。やはり選ばれて、お願いします、分かりました、と引き受けるわけだから。プレッシャーを感じずに、よーし、じゃあやったるか、柔道界、野球界、ファンのためにやったるか、となるといいよね。選ばれた人間なんだからね」

 名門球団を率いること、日本のお家芸を率いること。2人は、伝統を重んじながらも、枠をはみ出したり、新しいものを取り入れることをいとわないし、恐れない。井上監督は選手に陶芸や茶道、サンボに挑戦させるなど、一見異色の取り組みを続けてきた。

 井上監督「私は伝統は『変わらないこと』じゃないと思っている。普遍的な思想、哲学は継承しながらも、伝統は変えていくものなのかなと。社会的背景がこれだけ変わっているのに同じであることがおかしいと感じる」

 原監督「うーん、素晴らしいね」

 井上監督「選手の能力は無限。柔道だけを学ぶのではなくて、多様多角にいろんなものを吸収し、考えたり、想像力を働かす源は知識なのかなと。柔道の技術的なことは突き詰めてやっていく一方で、選手たちにはいろんな世界を見ながら、考え、発想を高めてもらいたい」

 原監督「いろんなものを知りなさい、その中でどんなものを本人がつかんでいくか、ということだよね。小さな視野で進むより、いろんな視野を持ちなさい、と。これが必要というなら続けていけばいい。人は四六時中柔道、野球のことを考えなさいって言っても、無理! 柔道、野球に集中するために、リラックスの仕方や趣味や、コンディショニング、いろんな方法がある。だからそういうのを学びなさいということだろうね」

 井上監督「基本的には1回で、繰り返すことはない。興味があったら自分で学びなさい、動きなさいと。柔道界の中でも自主性を持った選手をいかに育てていくかが課題。ヒントを与えて、自分自身で考える環境を意識的につくるようにしています」

 2人の監督論は尽きないが、最後に互いにエールを送ってもらった。

 原監督「もう何も言うことはないね。今のまんまでいてもらいたい。きょうの話を聞いても、初心をとても大事にし、全く守るところがない状態で、常に攻めているのが伝わってくるし、そのままの心境で、大いに攻めて、そして好きな柔道を楽しんでもらいたい。それが柔道ファン、スポーツファンを楽しませることになる」

 井上監督「私も同じですね。いつまでも、これまで同様の原監督でいてもらいたいな、と思う。僕自身がトレーニングとかをやり始めたのも、実は原監督の影響が強いんです。憧れの巨人の中で、生き生き、はつらつ、スマートに活躍されている。柔道の監督としてもそういう姿を見せることで、選手にも、子供たちにもいい影響を与えていける存在であり続けたい。私にとっても原監督には憧れの監督であり続けてもらいたい。それが正直なところですね」

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