第6回受賞者(2004年) 阪神・赤星憲広

2004年11月27日6時0分  スポーツ報知

第6回受賞者(2004年) 阪神・赤星憲広
 日本のプロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の表彰式が2004年11月26日、東京・虎ノ門のホテルオークラで行われた。第6回を迎えた今回の受賞者は、昨年から盗塁1個につき車いす1台を全国の施設や病院に贈っている阪神・赤星憲広外野手(28)。約400人が出席した表彰式にはダイエー・王貞治監督も姿を見せ「走って、走って、夢を届けた盗塁王」を祝福した。同選手には小松崎和夫・報知新聞社社長からトロフィーが贈られ、さらに副賞の200万円と、特別賞の「阿部雄二賞」100万円も贈呈された。
 高ぶる気持ちを落ち着かせるように、赤星は大きく息を吸い込んだ。スポットライトを全身に浴び、マイクの前に立った姿が、大きく見えた。「プロ野球選手は夢を与えることができ、人々に貢献できる職業。プロ入りまでは夢をもらっていたが、プロ入り後は夢を与えたいと思い続けていました」ひと言、ひと言をかみしめるように続けたスピーチに、会場から大きな拍手が巻き起こった。

 走ることで、全国各地に大きな夢を届けた。骨肉腫で闘病生活を送る女性からの手紙がきっかけで、盗塁1個につき車いす1台を贈呈という、昨年から始めた斬新なボランティア活動。残念ながらその女性は今年1月に他界したが、球界初めての試みに多くの人が驚き、感銘を受けた。「ファンレターには足の不自由な人からのものが多い。“私たちにできないことを、赤星さんがやってくれる”と書いてありました。何かしたいと思い、車いすを贈ることを決めました」と、説明した。

 40台を上限設定した初年度は、リクライニング付きの特別仕様1台を含む41台をプレゼント。2年目の今年は、その制限枠を取り払ったことで、盗塁数(64)に特別仕様1台を加えた65台が病院や福祉施設へ。30日に甲子園球場隣の新室内練習場で贈呈式を行う。

 今回の応募総数は実に350件。「すごいですね」反響の大きさに驚いた赤星だが、その視線はボランティア活動3年目となる来季へ向いていた。「盗塁のセ・リーグ記録(76個、83年の巨人・松本)を抜くことが目標。クリアするためには打率を残すことが大事。打率3割3分以上、190安打ぐらい打てれば、盗塁数は10~20個は増えるでしょう」打撃部門のレベルアップが、さらなる「愛の手」に結びつくことは、赤星自身がいちばん熟知している。

 昨年の契約更改交渉で、球団側に対し、バリアフリー時代に対応した球場改装を要請。今年も障害者用トイレの設置を訴えて、車いすのファンに“優しい”球場改装を求めていく。

 「今から話をしておけば、球団側も早めに取りかかってくれるかも。設備が整えば赤星シートを作ってもいい」2008年着工予定の甲子園リニューアルを前に、積極的に要望を出していく。12月には地元・愛知で「赤星杯」を開き、少年野球の人口拡大にもひと役買う。「日本球界がいい方向に進むように頑張っていきたいですね」来年も再来年も、現役を退くまで、猛虎のレッドスターは走り続ける。

 ◆赤星 憲広(あかほし・のりひろ) 1976年4月10日、愛知県生まれ。28歳。大府高から亜大、JR東日本を経て、2000年ドラフト4位で阪神入団。01年から4年連続盗塁王のほか、01年に新人王、03年にベストナイン、ゴールデングラブ賞に3度(01、03、04年)選出されている。今季は138試合に出場、打率3割、0本塁打、30打点、64盗塁。プロ4年間の通算成績は484試合で打率2割9分4厘、2本塁打、100打点、190盗塁。年俸1億円(推定)。独身。170センチ、65キロ。右投右打。

 ◆根来コミッショナー「受賞当然」

 暗くよどんだ世相を吹き飛ばす“快走”に称賛の嵐が巻き起こった。プロ野球界だけでなく、国内を揺るがす事件が続いた2004年。本賞の選考委員でもある根来泰周コミッショナーはあいさつで「今年はオリンピックという明るいニュースがあったが、台風、地震という暗いニュースが駆けめぐった。我がプロ野球も大波、小波を受けて大変な年だった」と激動の一年を振り返った。

 そんな年だったからこそ、人々の心をホッとさせ、勇気づけた赤星の活動が脚光を浴びる。「これからは若い人に大きな夢、観衆に大きな感動を与えることがプロ野球球団に課せられた大きな使命ではないか。球団の構成員である選手も社会貢献することが大きな使命になっていく。今回、赤星選手の球場外の貢献に対する受賞は当然」とコミッショナーは絶賛した。

 巨人・長嶋茂雄終身名誉監督からもメッセージが届けられた。ミスターはその中で「盗塁はチームに貢献するばかりでなく、自分自身にとっても大きな目標であり、ファンの皆さんにも喜んでいただける。さらに車いすを望んでおられる方々へのビッグなプレゼント。まさに一石四鳥にもなる素晴らしいアイデア」と褒めたたえた。赤星の意思と活動は闘病中のミスターにも大きな力になるはずだ。

 変わろうとしているプロ野球界と、暗いニュースが連日報道される日本。その中で変わらずに力強く息づいているもの、それは人間の善意。ファンに夢を与えながら、恵まれない人たちの足となって輝き続けた赤い星に、出席者からは惜しみない拍手が送られ続けた。

 ◇選考委員(敬称略、順不同) 根来泰周(プロ野球コミッショナー)、豊蔵一(セ・リーグ会長)、小池唯夫(パ・リーグ会長)、長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)、佐山和夫(作家)、伏見勝(報知新聞社最高顧問)、小松崎和夫(報知新聞社社長)

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