第14回受賞者(2012年) 阪神・藤川球児

2012年11月7日6時0分  スポーツ報知

第14回受賞者(2012年) 阪神・藤川球児
 プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の第14回受賞者が6日、阪神・藤川球児投手(32)に決定した。2007年から骨髄バンクの支援に取り組み、自らもドナー登録。10年からは自身のモバイルサイトの収益を寄付するなど活動の幅を広げてきた。また、07年からスタートさせた不登校児の公式戦招待など幅広い活動が評価された。表彰式は20日に都内のホテルで行われる。
 球児が泣いた―。プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「第14回ゴールデンスピリット賞」の表彰式が20日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で行われた。阪神からFA宣言し、メジャー移籍を目指す藤川球児投手(32)が、自らもドナー登録する骨髄バンクへの支援や不登校児の公式戦招待など、幅広い活動を評価され受賞した。表彰の席上、07年に白血病を克服し、藤川から甲子園の始球式に招待された中学生からの祝福の手紙がサプライズ披露されると、藤川は顔を覆って号泣した。

 あふれ出る涙をどうすることもできなかった。「すごく光栄だし、自分にはもったいないという気持ち」と、笑顔でインタビューを終えた直後だった。事前の打ち合わせにはなかったサプライズに、藤川の心の堤防が決壊した。司会の日本テレビ・町田アナウンサーが手紙を代読すると、思わず手で顔を覆った。

 「藤川投手がキャッチャーをしてくれたので、がんばって投げることができました」

 手紙の主は、藤川が07年7月29日の横浜(現DeNA)戦(甲子園)始球式に招待した当時小学4年の武山虎太郎くん(中学2年)。骨髄移植により白血病を克服した少年との出会いが、藤川をより、骨髄バンクへの支援活動に力を入れさせるきっかけになった。「自分ができることから」と始めた活動が、子どもたちの心に届いていたことに思わず感極まった。

 昨年5月には、東日本大震災で被災した宮城・岩沼市をチームメートと訪問。また社会問題となっている不登校やいじめ問題にも目を向け、07年からは不登校児支援ネットワークを通じて子供たち10人を甲子園球場の公式戦に年間30試合招待してきた。「1人でやっていることは微力だけど、それが2人になればその倍、またどんどん倍になってくる。みんなで力を合わせていければ」と、活動の輪が広がることに期待した。

 19日にメジャー5球団の施設を見学して米国から帰国したばかり。「もう少し向こうにいるつもりだったけど、この賞を頂けるということでぜひに、と帰ってきた」ときっぱり。会場では幼少のころは巨人ファンだった藤川が、あこがれの人だという長嶋茂雄氏(巨人軍終身名誉監督)から「(移籍先は)決まったのか?」と直球勝負を突きつけられ「まだ決まってないです」と、緊張気味に答える場面もあった。

 「(実家には巨人ファンの)父親やおじいちゃんもいて、一家で喜んでる気持ちになった。帰って報告したい」。涙あり緊張あり、そして最後は童心に返ったようなとびきりの笑顔を浮かべた。

 ◆受賞理由

 藤川は07年から、不登校児や引きこもり児童に手を差しのべてきた。市町村の教育委員会主催の適応指導教室や、関西圏のフリースクールなどに通う子供たち10人を、07年から甲子園球場の公式戦に年間30試合招待。その数は6年間で約1800人に及ぶ。長嶋茂雄選考委員は「ユニークな着想で、毎年しっかり続けているのも、強い信念に基づいたもの」と評価した。

 骨髄バンクの支援活動も同年に始め、自身もドナー登録した。モバイルサイトの収益の一部を寄付するだけでなく、骨髄バンク主催の野球教室や支援イベントにも積極的に参加してきた。同年7月には甲子園での始球式に白血病を克服した武山虎太郎くんを招待。始球式で自ら捕手を務め、ファンにドナー登録を呼びかけた。

 09年からは病院訪問も始めた。大阪・和泉市の母子医療センターのクリスマス会に出席。小児病棟の子供や医師、看護師を激励した。選考委員の6人は長年にわたる独自性のある活動を評価。今回の受賞が決まった。

 ◆藤川 球児(ふじかわ・きゅうじ)1980年7月21日、高知市出身、32歳。高知商では2年夏に右翼手兼控え投手として出場したが、2回戦で敗退。98年のドラフト1位で阪神に入団。2005年から中継ぎとして本格的に1軍定着し、ウィリアムス、久保田と「JFK」としてリーグ制覇に貢献。当時のプロ野球記録である80試合登板を達成。06年からは抑えに転向し、07年には46セーブ(現プロ野球記録)にセーブ王。11年にも同タイトルを獲得している。通算成績は562試合登板、42勝25敗220セーブ(歴代5位)、防御率1・77。184センチ、86キロ、右投左打。

 ◆選考経過

 プロ野球選手の社会貢献は自然なものとして定着しつつあるが、今回は活動の継続性はもちろんのこと、独自性、社会性という観点から、議論が深まった。

 佐山和夫委員は「直接子供たちに自分の体で接し、大きな効果を上げている人に敬服する」と“触れ合い”の必要性を重視。阪神・藤川球児投手、巨人の内海哲也投手と村田修一内野手、ロッテ・今江敏晃内野手らの名前を挙げた。長尾立子委員が推薦したのは藤川と村田。村田の新生児医療支援を「自分の体験から来る特色ある活動」、骨髄バンクにドナー登録もしている藤川を「自ら参加していることが大きな影響を与える」とした。

 加藤良三委員が推したのは、盲導犬育成を援助するヤクルト・宮本慎也内野手。「プロ野球選手にそういう視点があるのか、と感銘を受けた」と推薦理由を述べた。平尾昌晃委員は、入団当初から児童養護施設を支援する内海を候補に挙げ、「自分でクリスマスパーティーを主催するところまではなかなかいかない」と誠意のこもった活動内容を高く評価した。

 リハビリのため選考会を欠席した長嶋茂雄委員は、文書で藤川を推薦。不登校問題に向き合う活動を「ユニークな着想で、毎年しっかり続けているのも強い信念に基づいたもの」と指摘した。

 独自性でも甲乙つけがたく、熱を帯びた議論が展開されたが、最終的には「現代的かつ深刻、外から支援の手を差し伸べにくいテーマ」(早川正委員)に取り組む藤川に、全会一致で決定した。

 ◇選考委員(敬称略・順不同) 加藤良三(プロ野球コミッショナー)、長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)、佐山和夫(作家)、長尾立子(全国社会福祉協議会名誉会長)、平尾昌晃(歌手、作曲家)、早川正(報知新聞社社長)

 ◆ゴールデンスピリット賞 日本のプロ野球球団に所属する人の中から、積極的に社会貢献活動を続けている人を表彰する。毎年1回選考委員会(委員名別掲)を開いて、球団推薦と選考委員推薦で選ばれた候補者から1人を選定する。欧米のスポーツ界では社会貢献活動が高く評価され、中でも米大リーグの「ロベルト・クレメンテ賞」が有名で、球界での最高の賞として大リーガーの憧れの的になっている。日本では試合での活躍を基準にした賞がほとんどで、球場外の功績を評価する表彰制度は初めて。いわば「球場外のMVP」。受賞者にはゴールデントロフィー(東京芸術大学名誉教授・絹谷幸二氏作製のブロンズ像)と阿部雄二賞(100万円)が贈られる。また受賞者が指定する団体、施設などに報知新聞社が200万円を寄贈する。

 ◆阿部雄二賞 2001年、本賞を第1回から協賛している株式会社サァラ麻布の代表取締役社長・阿部雄二氏が逝去。同氏の遺志として3000万円が報知新聞社に寄贈された。報知新聞社はその遺志を尊重し、長く後世に伝えるため「阿部雄二賞」を創設した。

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