第15回受賞者(2013年) ヤクルト・宮本慎也

2013年11月22日6時0分  スポーツ報知

第15回受賞者(2013年) ヤクルト・宮本慎也
 プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「第15回ゴールデンスピリット賞」の表彰式が22日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で行われた。今季限りで現役を引退したヤクルト・宮本慎也内野手(43)は、08年から1安打につき1万円、計6年間で698万円を公益財団法人・日本盲導犬協会に寄付するなど盲導犬育成のサポートをしてきた。「ある意味、野球の賞をもらうよりうれしい」と喜びを表し、生涯にわたり支援を続けていくことを誓った。
 優しい表情ながらも、宮本は毅然(きぜん)とした態度で思いやりを見せた。盲導犬のデモンストレーション終了後。ハーネス(犬の胴体に装着する胴輪)を付けた盲導犬PR犬とのフォトセッションだった。カメラマンからの「犬に触ってください」とのリクエストをきっぱりと断った。「触ってはダメなんです」。ハーネスを装着している間は、盲導犬の仕事中。なでたり、触れてはいけない。深い理解を表彰式でも示す格好となった。

 08年から始めた寄付は、698万円にも及んだ。さらに、犬舎に敷くバスタオルを送るなどさまざまな形で協力してきた。この日も、妻・知美さんから「バスタオルがたまったから送っておくね」と言われて家を送り出された。「僕が一文無しになったとしても、バスタオルくらいは送れる」。寄付だけじゃない。使用済みのタオル一枚でも役に立てるということを多くの人に知ってもらいたいと願っている。

 「(盲導犬の)希望者と盲導犬の数が一致すれば一番いいんですが、少しでも近づける手助けができれば」。副賞の200万円は、すべて日本盲導犬協会に寄付することも決めた。「賞をいただくためにやってきたわけではないが、日本のロベルト・クレメンテ賞と言われるほどの賞をいただけた。ある意味、野球の賞をもらうよりうれしい」と笑顔を見せた。

 盲導犬のサポートは生涯続けていく。「微力ながら、盲導犬の存在を広めていく活動をさせていただきたい。これからも寄付は続けたいし、年1回は訓練センターを訪問したい。末永くお付き合いさせていただく所存です」。犠打や好守でチームを支えた名選手は、ユニホームを脱いでも献身的な姿勢を貫く。

 ◆宮本 慎也(みやもと・しんや) 1970年11月5日、大阪府生まれ。43歳。PL学園高から同志社大、プリンスホテルを経て、94年ドラフト2位でヤクルト入団。シュアな打撃と堅実な守備で95、97、01年と3度の日本一に貢献し、12年には通算2000安打を達成。ゴールデン・グラブ賞には遊撃手と三塁手で計10度輝いた。日本代表では主将として04年のアテネ五輪、08年の北京五輪に出場。06年の第1回WBCで世界一。05年から3年間、日本プロ野球選手会の会長も務めた。今季限りで現役を引退した。通算成績は2162試合に出場し、打率2割8分2厘、62本塁打、578打点。176センチ、82キロ。右投右打。既婚。

 ◆受賞理由

 宮本は視覚障がい者支援として、08年から公益財団法人日本盲導犬協会に、「1安打につき1万円」の寄付を続け、盲導犬育成の支援に取り組んできた。寄付金の総額は、引退した今季までの6年間で計698万円に達する。長嶋茂雄委員は、「彼自身の人柄にも合った活動。視覚障がい者と盲導犬との信頼関係は、プロ野球選手同士の信頼関係に通じる」と評価した。

 また、東日本大震災の被災者支援にも力を入れている。被災地に義援金500万円を送ったほか、11年4月度に自身初の月間MVPを受賞した際には、獲得賞金で野球道具を購入して宮城・気仙沼の少年野球チームに寄贈。同年オフからは、同地で小中学生を対象に野球教室を開催するなど、幅広い活動が評価された。

 選考委員の間からは、ユニホームを脱いでも社会貢献活動を続けていくことに期待する声が続出。08年から続けてきた継続性も、今回の受賞を後押しした。

 今季限りでプロ19年間の現役生活にピリオドを打ったが、支援活動はまだまだ現役だ。

 ◆選考経過

 年々多彩になっている活動の中でも、社会への視点というものが一つの選考テーマとなった。

 佐山和夫委員は09年にランドセル基金を発足させた巨人・内海を始め、子どもたちと積極的に関わる活動を展開する巨人・村田、ロッテ・今江らを「喜んでいる子どもの顔が見える」として評価。さらにヤクルト・宮本の盲導犬援助を「なかなか簡単にはできない」と指摘した。

 加藤良三委員は、佐山委員同様に4人の名前を挙げながらも、宮本を強く推した。「玄人受けというか、いかにも宮本選手らしいユニークな貢献」と、名脇役だった宮本の現役時代に重ね合わせた。

 長尾立子委員が推薦したのは宮本とDeNA・金城。「2人とも始めたのが08年。長年にわたり活動してきた」と、継続性も推薦理由に挙げた。

 平尾昌晃委員は、実体験に基づく村田の活動を評価する一方、宮本の視点の鋭さに感銘を受けたという。「地道に一筋にやることで、盲導犬にもスポットライトが当たる」。リハビリのため選考会を欠席した長嶋茂雄委員も、文書で宮本を推薦。「彼自身の人柄にも合った活動。視覚障がい者と盲導犬との信頼関係は、プロ野球選手同士の信頼関係に通じる」とした。

 全員が共通して挙げたのが宮本の名前で、満場一致で受賞が決定。「ファンは引退したと思っていない」(平尾委員)、「引退しても別の形での貢献が楽しみ」(早川正委員)とユニホームを脱いだ後の活躍にも、期待を寄せる声が相次いだ。

 ◇選考委員(敬称略・順不同) 加藤良三(前プロ野球コミッショナー)、長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)、佐山和夫(作家)、長尾立子(全国社会福祉協議会名誉会長)、平尾昌晃(歌手、作曲家)、早川 正(報知新聞社社長)

 ◆ゴールデンスピリット賞 日本のプロ野球球団に所属する人の中から、積極的に社会貢献活動を続けている人を表彰する。毎年1回選考委員会(委員名別掲)を開いて、球団推薦と選考委員推薦で選ばれた候補者から1人を選定する。欧米のスポーツ界では社会貢献活動が高く評価され、中でも米大リーグの「ロベルト・クレメンテ賞」が有名で、球界での最高の賞として大リーガーの憧れの的になっている。日本では試合での活躍を基準にした賞がほとんどで、球場外の功績を評価する表彰制度は初めて。いわば「球場外のMVP」。受賞者にはゴールデントロフィー(東京芸術大学名誉教授・絹谷幸二氏作成のブロンズ像)と阿部雄二賞(100万円)が贈られる。また受賞者が指定する団体、施設などに報知新聞社が200万円を寄付する。

 ◆阿部雄二賞 2001年4月9日、本賞を第1回から協賛している株式会社サァラ麻布の代表取締役社長・阿部雄二氏が逝去。同氏の遺志として3000万円が報知新聞社に寄贈された。報知新聞社はその遺志を尊重し、長く後世に伝えるため「阿部雄二賞」を創設した。

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