第22回受賞者(2021年) 阪神・矢野燿大監督

第22回受賞者(2021年) 阪神・矢野燿大監督 阪神・矢野燿大監督
 プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の第22回受賞者が11日、阪神・矢野燿大監督(53)に決定した。2010年に筋ジストロフィー患者・児童養護施設の子どもたちへの応援基金「39(サンキュー)矢野基金」を設立。電動車いすの支援や寄付などに継続的に取り組んできたことが評価された。指揮官の基金設立のきっかけとなった倉野憲彰さん(32)はスポーツ報知にメッセージを寄せた。
 「球場外のMVP」の知らせに、心の中で“矢野ガッツ”を繰り出した。矢野監督の野球人としての生きざまを示す実直な活動がスポットライトを浴びた。「自分は旗揚げしただけで信頼できるスタッフ、皆さんがいて初めてできること。表彰されるためにやっているわけではないけど、皆さんと協力して取り組んできた活動が受賞につながったことがうれしい」。仲間思いの指揮官らしく、周囲への感謝の気持ちがあふれ出た。

 東北福祉大時代から社会貢献活動に意欲的で、01年には甲子園に「矢野シート」を設けて兵庫県内の福祉施設の児童らを招待。その思いをより強くしたのは、全身の筋肉が徐々に衰えていく病気「筋ジストロフィー」と闘う倉野さんとの出会いだ。04年にファンレターをもらい、翌年に大阪の特別支援学校の訪問が実現。実情を知り、「苦労されていることが多々あった」。特に車いすはオーダーメイドで高額のため、少しずつ失われる運動機能、症状に合ったものを持てない患者が多かった。「何かできないか」と模索し、10年に「39矢野基金」を立ち上げた。

 同年に現役引退後、啓発活動と並行して、積極的に病院などを慰問。指導者となった16年以降は交流の機会が減る分、知恵を絞った。いずれも売り上げの一部が募金される自動販売機の設置や「LINE」スタンプを配信。児童養護施設の野球大会も援助した。「『長く継続的に支援すること』『誠実にやること』が基金設立時に決めたルール。預かったお金が1円でもずれがあると申し訳ない」。基金の収支は社会福祉法人「大阪府社会福祉協議会」のホームページ上で報告され、12年間の寄付総額は4500万円以上に上る。

 倉野さんとは初対面の際に「出られる電話は全部出るから」と連絡先を交換して、今もLINEでやり取り。患者、子どもたち、その家族の笑顔が矢野監督の活力になる。「自分が元気をもらっているし、応援してもらうばかりだから、恩返しがしたい。もっと『ありがとうの輪』が強く大きくなっていけば」。野球同様、信条とする「挑戦」を続け、支援の輪を広げていく。(小松真也)

 ◆矢野 燿大(本名=輝弘、やの・あきひろ)1968年12月6日、大阪市生まれ。53歳。桜宮高、東北福祉大を経て、90年ドラフト2位で中日入団。97年オフに大豊とともに久慈、関川との交換トレードで阪神移籍。正捕手として2003、05年リーグ優勝。10年に現役引退。通算1669試合で打率2割7分4厘、1347安打、112本塁打、570打点。ベストナイン3回、ゴールデン・グラブ賞2回。16年に作戦兼バッテリーコーチ就任。18年に2軍監督、19年から1軍監督。3位、2位、2位と3年連続Aクラス入り。

 ◆選考経過 社会貢献活動の多様化、国際化が進む中、ノミネートされた10人を対象とした選考委員会では、活動の規模や期間、さらには「コロナ禍を受け、この賞も再出発の時。社会へのアピール性が強いものであってほしい」(佐山委員)といった観点から議論が進められた。

 最終候補に挙がったのは阪神・矢野監督、巨人・菅野選手(介助犬の普及支援)、日本ハム・宮西選手(ホールド数+セーブ数に応じた金額を社会福祉団体などに寄付)の3人。矢野監督は「引退後も地道に活動を続けてきた」(長嶋委員=文書で参加)継続性、菅野選手は「介助犬の認知度を高めた」(三屋委員)メッセージ性、宮西選手は「他のリリーフ陣にも寄付を呼びかけている」(大塚委員)活動の広がりが高く評価された。

 中でも矢野監督は現役時代から12年と活動期間が長く、寄付総額も4500万円を超えることから「初めてのノミネートだったのは意外」(斉藤委員)との声が相次いだ。自販機の売り上げの一部を寄付するなど「継続を意識して仕組みを工夫している」(依田委員)といった点も評価され、最後は満場一致で決定した。

 ◇選考委員(敬称略・50音順) 大塚義治(日本赤十字社社長)、斉藤惇(プロ野球コミッショナー)、佐山和夫(ノンフィクション作家)、長嶋茂雄(読売巨人軍終身名誉監督)、三屋裕子(日本バスケットボール協会会長)、依田裕彦(報知新聞社代表取締役社長)。

 ◆ゴールデンスピリット賞 日本のプロ野球球団に所属する人の中から、積極的に社会貢献活動を続けている人を表彰する。毎年1回選考委員会(委員名別掲)を開いて、球団推薦と選考委員推薦で選ばれた候補者から1人を選定する。欧米のスポーツ界では社会貢献活動が高く評価され、中でも米大リーグの「ロベルト・クレメンテ賞」が有名で、球界での最高の賞として大リーガーの憧れの的になっている。日本では試合での活躍を基準にした賞がほとんどで、球場外の功績を評価する表彰制度は初めて。いわば「球場外のMVP」。受賞者にはゴールデントロフィー(東京芸術大学名誉教授・絹谷幸二氏作製のブロンズ像)と阿部雄二賞(100万円)が贈られる。また、受賞者が指定する団体、施設などに報知新聞社が200万円を寄贈する。

 ◆阿部雄二賞 2001年4月9日、本賞を第1回から協賛している株式会社アイ・インベストメントの代表取締役社長・阿部雄二氏が逝去。同氏の遺志として3000万円が報知新聞社に寄贈された。報知新聞社はその遺志を尊重し、長く後世に伝えるため「阿部雄二賞」を創設した。

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