第26回受賞者(2025年) 阪神・近本光司外野手



 プロ野球人の社会貢献活動を表彰する報知新聞社制定「ゴールデンスピリット賞」の第26回受賞者が、阪神・近本光司外野手(30)に決定した。主催試合(甲子園)の年間予約席を購入して、生まれ故郷の兵庫・淡路島在住者を年間240人招待。淡路島や自主トレ先の鹿児島・沖永良部島の子どもたちを対象に野球・スポーツ教室も開催している。また、一般社団法人「LINK UP」を設立し、自ら理事を務める熱意や、離島支援・地方創生という独創性も評価された。
第26回受賞者(2025年) 阪神・近本光司外野手 阪神・近本光司外野手
 幾多のタイトルを手にしてきた近本に新たな勲章が加わった。激動のシーズンを終えた直後に届いたのは、待望の知らせだった。「すごく驚きましたけど、素直にうれしい。(球団内の社会貢献を評価する)若林忠志賞は2年前に取ったので、次は、と思ってました(笑)」。柔和な表情で「球場外のMVP」をかみしめた。

 きっかけは大阪ガス1年目の17年。都市対抗の予選で敗れ、野球を続ける意義を自問自答した。「淡路島で人とつながり、野球を続けて来られた。淡路島のために何かしたい」。翌18年、侍ジャパン社会人代表でアジア大会2位。銀メダルを手に地元の子どもたちと交流を深めたことが始まりだ。プロ1年目のオフに出身地・淡路市の「スポーツ親善大使」に就任し、翌年から甲子園に同市在住者を招待。今年7月には淡路島と自主トレ先の沖永良部島の小中学生16人も聖地に呼び寄せた。「今日来てるから、何とかヒット打ちたいなとか。すごくいい刺激になる」。長丁場の戦いで、己の力にも変えている。

 社会貢献の根底にあるのは中学生時代の経験。すでに野球を始めていたが、地元のパン店「ブランジェリー・フルール」で勤労体験に参加したことで、パン職人やパティシエになる夢を持った。「ネットやSNSで情報がすぐ手に入る世の中だけど、目で見たときの情報量はケタが違う。本物を見せたい、生で見てほしい」。実体験が将来の選択肢を広げることを知るからこそ、離島の子どもたちの思い出づくりの一翼を担ってきた。

 現役では異例となる会社を設立したのも深い理由がある。「現役の時から仕組みをつくって、僕が引退しても死んだとしても、活動が続くように」。法人化したことでシーズン中の活動も増えた。「10年後、20年後、地元のためにできることはないかなと考えてくれる子どもが1人でも多くいて育ってくれたら。次の世代につなげていかないと、地方は過疎化して、街もなくなっていく」。故郷への思いが原動力。“未来の近本”に「本物」を届け続ける。(直川 響)

 ◆近本光司(ちかもと・こうじ)1994年11月9日、兵庫・淡路市出身。30歳。社から関学大へ進学し、2年時に投手から外野手に転向。卒業後は大阪ガスに入社し、18年ドラフト1位で阪神入団。盗塁王6度(19、20、22~25年)、最多安打1度(21年)で1年目から7年連続でタイトル獲得。今季は140試合に出場し、打率2割7分9厘、3本塁打、34打点、32盗塁。171センチ、70キロ。左投左打。推定年俸3億7000万円。既婚。

 ◆選考経過 全12球団からノミネートされた23人のうち、榊原委員は、東日本大震災の被災地を継続的に支援する中日・山井コーチを、鈴木委員とともに推薦。三屋委員は同コーチのほか、一般社団法人を設立して離島を支援する阪神・近本の名を挙げた。栗山委員は、近本が能登半島地震で被災した学校にバットを寄贈したことにも言及。昨年まで委員を務めた故・長嶋茂雄さんも石川県の高校にバットを贈っており「長嶋さんの魂みたいなものも大事かな」と熱く語った。

 途中からは山井コーチ、近本、楽天・則本、広島・小園の4人に絞って協議したが結論は出ず。最後は全委員による山井コーチと近本の決選投票が行われ、1票差で近本の受賞が決まった。長谷川委員は本業と支援活動の両立を高く評価。今回から新たに加わった原委員も「野球人としても尊敬に値するプレーヤー」と話した。佐山委員が「1名となると本当に(選考が)厳しい」と話すほどの白熱した議論だった。

 ◇選考委員(敬称略・50音順) 栗山英樹(2023年WBC日本代表監督)、榊原定征(プロ野球コミッショナー)、佐山和夫(ノンフィクション作家。メジャーリーグに造詣が深い。ゴールデンスピリット賞の提唱者の一人。2021年野球殿堂入り)、鈴木俊彦(日本赤十字社副社長)、長谷川剛(報知新聞社代表取締役社長)、原辰徳(読売巨人軍前監督)、三屋裕子(日本オリンピック委員会副会長。バレーボール女子日本代表として84年ロス五輪銅メダル)

 ◆ゴールデンスピリット賞 日本のプロ野球球団に所属する人の中から、積極的に社会貢献活動を続けている人を表彰する。毎年1回、選考委員会(委員名別掲)を開いて、球団推薦で選ばれた候補者から1人を選定。社会貢献活動の表彰はMLBの「ロベルト・クレメンテ賞」が有名で、球界最高の賞としてメジャーリーガーの憧れの的になっている。日本では球場外の功績を評価する表彰制度は同賞が初めて。いわば「球場外のMVP」。受賞者にはゴールデントロフィー(洋画家で文化勲章受章者の故・絹谷幸二氏が作製したブロンズ像)と阿部雄二賞(100万円)が贈られる。また受賞者が指定する団体、施設などに報知新聞社が200万円を寄贈する。

 ◆阿部雄二賞 本賞を第1回から協賛している株式会社アイ・インベストメントの代表取締役社長・阿部雄二氏が2001年4月9日に逝去したことを受け、報知新聞社が「阿部雄二賞」を創設した。

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