報知創刊の地 歩いてみた

【スミまでお散歩】

2025年5月11日8時00分 スポーツ報知

 区内最古ともいわれる吾嬬神社。かつてのご神木は枯れて根元だけ残っている  区内最古ともいわれる吾嬬神社。かつてのご神木は枯れて根元だけ残っている

 墨田区に不思議な名前の駅がある。区の東部にある東武亀戸線・東あずま駅。一瞬「あずまあずま?」とも読み違えるが、正しくは「ひがしあずま」。歌川広重が描いた江戸の名所「吾嬬(あずま)神社」に由来する。

 東京大空襲で被災するまでは「平井街道駅」という名で、江戸川区の平井聖天へ続く参詣道が現在も残る。街道沿いで創業45年を数えるのが喫茶「ピノキオ」だ。ルーツは古く、店主の小山直樹さん(47)の先祖が江戸後期に茶屋を開いたのが始まり。青果店や食堂を経て、小山さんの父・雄三さん(故人)の代で喫茶店になった。店名は「子どもからお年寄りまで親しまれるように」と名付けた。

 和食の料理人をしていた直樹さんの転機は、ピノキオの改装準備中だった2011年の東日本大震災。閑静な街道沿いが人や車で埋め尽くされ大混乱になった。「この地域で休憩できる場所はここしかない」と、父こだわりの喫茶店を守っていく決意が固まった。

 店内の電話ボックスやソファは、創業当時のものだ。「40年以上たっても壊れない。新しい備品が先に壊れていく。古くてもいいものはいいんです」。口調は熱を帯びた。

 コーヒーの香り漂う店をあとにしてしばらく歩くと、吾嬬神社があった。広重の浮世絵にあるご神木は縁起物として江戸っ子に人気だったという。あらゆる人が往来した東あずまは、先人の息吹がすぐそこにある街だった。(堀北 禎仁)

 東あずまの喫茶店「ピノキオ」。濱田岳が主演するドラマのロケ地にもなった  東あずまの喫茶店「ピノキオ」。濱田岳が主演するドラマのロケ地にもなった

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