日本凱旋公演『The Life of HOKUSAI』葛飾北斎役のパフォーミングアーティスト・サカクラカツミ×「すみだ北斎美術館」大久保純一館長 対談実現!4・18 浅草公会堂で注目公演

2026年3月27日08時00分 スポーツ報知

舞台『The Life of HOKUSAI』葛飾北斎役のパフォーミングアーティスト・サカクラカツミ㊨とすみだ北斎美術館・大久保純一館長 舞台『The Life of HOKUSAI』葛飾北斎役のパフォーミングアーティスト・サカクラカツミ㊨とすみだ北斎美術館・大久保純一館長(すみだ北斎美術館MARUGEN100講座室で)

 日本が世界に誇る天才絵師、葛飾北斎を題材にしたノンバーバル舞台芸術作品「The Life of HOKUSAI」の日本凱旋公演を前に、北斎役を務めるパフォーミングアーティストのサカクラカツミが27日までに、北斎の専門ミュージアム「すみだ北斎美術館」を表敬訪問し、大久保純一館長との対談が実現した。
 
舞台「The Life of HOKUSAI」は2020年に制作。新型コロナウィルスの影響で、公演ができず、映像作品として世界に配信。英国エジンバラ芸術祭に出品して4つ星を獲得する高評価を得て、22年には内閣府主催のクールジャパン・マッチングアワードを受賞。23年に初公演をイタリアのボローニャで行い、その後も世界7か国の芸術祭での公演を経て、日本凱旋公演を葛飾北斎の命日でもある4月18日に浅草公会堂で行う。舞台を控え、実現した対談では北斎にまつわる興味深い話の数々が飛び出した。(佐々木 良機)
 
サカクラカツミ まずは本当に貴重なお時間をいただいてありがとうございます。大変光栄です。

大久保館長 ありがとうございます。私はあまり舞台芸術には詳しくないので、そのあたりから少しご紹介いただければ。

サカクラ 私は、日本の素晴らしさというものをダンスのパフォーマンスで伝えることを世界に向けてやってきています。おかげさまで49か国から招聘していただいたりして行ってきていますが、葛飾北斎という日本のコンテンツは世界に強く、これを届けたいとの思いからお話いただき、北斎のことを調べていくうちに、私にそっくりだなと感じました。

館長 例えばどのような。

サカクラ 私はお酒が全然ダメでタバコも吸わなくて、甘党で大福が大好きなのですが、文献などによると「北斎が怒ったら大福を持っていけば機嫌が直る」っていうぐらい大好きだったとか。似ていてびっくりしました(笑)。北斎は奥様を亡くされた後、しばらく絵が描けなかったという史実がありますが、奥さんを亡くされたのが結婚して29年目。私も、この舞台のお話をいただいたのが、結婚して29年目だったんです。

館長 奥様は…ご存命ですよね。

サカクラ 存命です(苦笑)。ただ、そのちょっと前に妻が救急車で運ばれて、6時間にも及ぶ大手術の末に一命を取りとめたことがありました。だから私、北斎が29年目で奥さんを亡くしたということにものすごく反応しまして。その時の北斎と私の気持ちがピタッと一緒になったような気持ちがして。この作品には、北斎の力を借りつつ届けたいメッセージがあって、それは「あなたにとって一番大事なものって何ですか」というもの。私も妻が死ぬかもしれないということに直面するまでは自分の作品とか感性が一番大事と答えていたのですが、妻の手術の間に思ったのは、なぜもっと感謝の気持ちを伝えてこなかったのかという後悔。北斎も奥さんを突然失くした時に、おそらく後悔したからこそ、しばらく絵が描けなくなったのでは想像しました。なので「あなたにとって一番大事なものを考えてください」というメッセージを込めて舞台を作りました。

館長 なるほど。

サカクラ 今回、いよいよ日本での公演が決まった時に、日本の皆さんにどれぐらい受け入れてもらえるかという心配もあります。今、一生懸命に自分のパフォーマンスや作品自体をブラッシュアップしている中で、ここでもう1回、ブーストをかけるというか、ターボを効かせるために、ぜひ大久保館長にお話を伺いたいなと思っていました。

館長 それにしても珍しいですね。北斎を取り上げると、だいたい娘のお栄との絡みというお話が多いですが、妻というのは、私はちょっと他に例を知らないですね。

サカクラ そう言っていただいて嬉しいです。


4月18日(土)に浅草公会堂で行われる葛飾北斎を題材にした舞台「The Life of HOKUSAI」日本凱旋公演
4月18日(土)に浅草公会堂で行われる葛飾北斎を題材にした舞台「The Life of HOKUSAI」日本凱旋公演

館長 もともと武道をやっておられたとか。武芸を英訳したマーシャルアーツが欧州では人気で、北斎も本当にインターナショナル。欧米の人から見れば、北斎と日本のマーシャルアーツは、ある意味で琴線をくすぐるところがあるのでは。

サカクラ 私は空手をずっとやっていたのですが、空手の体の動かし方ってすごく珍しい。世界中、武道とか武術、格闘技などたくさんある中で、唯一って言えるほど珍しい体の使い方をする。例えば、手を出したいのに腰を戻すとか動きが複雑。なかなか分からなかったのですが、年を重ねてくると、この体の動かし方は日本の伝統文化に紐づいているというのが分かってきました。北斎は天才絵師を演じるにあたり、絵を描く人間と体を動かす人間の接点をどうしようかと悩んで、北斎の絵を研究されている方のところに行って、筆で絵を描く動きをトレーニングさせてもらいました。

館長 筆で絵を描く動き、ですか。

サカクラ 北斎は細いところから太いところまで線を一気に描くようで、ちょっと止まることによって角をつけて、そこを重みのあるものにする。それを体の動きで表現したいと思いました。筆で絵を描く時も手先ではやっていない。体全体でやる。これだと。私が長年、空手などで培ってきた腰の動きでできるのではと。ダンスで絵師を表現する中に、日本らしさ、武道のようなものを感じてもらえるのではと思っています。

館長 武道とか日本特有の体の動きだと『北斎漫画』の中に棒術とかが出てきます。『北斎漫画』の中の人物の描写は欧州の人たちにも関心があるようで、他の浮世絵師とは違う独特の癖のある描写、線の引き方なんかも特有だと思います。ご自身の舞台を作る時に『北斎漫画』の中に出てくる人間、体の動きなんかを意識されることは。

サカクラ 『北斎漫画』の中に武道のシーンあって、すごく細かいパーツまで描いている。話は少し外れますが、日本の戦国時代から続いてきた剣術は、明治からの戦争を経て、いったん途切れてしまいました。剣道に変わって、また剣術に戻って取り組む人もいますが、剣道は竹刀が軽いので早く動かすために鍔(つば)のすぐ下に手を当てて、もう一方の手は握りの一番下に小指がかかるぐらいにして、手と手を離します。だから、剣道をやってきた人が剣術に取り組んで2㌔ぐらいの重たい日本刀を扱おうとすると持ち方ができない。『北斎漫画』では、刀を持つ人の手は離れていなくて、鍔の下の右手とその下の左手がくっついています。北斎は観察眼がすごいから正確に描いているはずで、持ち方をそのようにすると重たい刀でも振りやすくなる。てこの原理でやろうと思うと重たいものは振れませんし、手をくっつけても腰を使わないと振れない。『北斎漫画』に描かれたことは日本の武道にとって大きな気づきを与えてくれました。


「すみだ北斎美術館」総入館者数150万人のセレモニーで、150人目の来館者となった埼玉の女子高生、南和歌菜さん(右から3人目、左から大久保純一館長、南さんの母・祐子さん、墨田区文化振興財団・澁谷哲一理事長、1人おいて山本享区長、南さんの父・知宏さん)
3月22日に「すみだ北斎美術館」は総入館者数150万人を達成、記念セレモニーが行われた(150人目の来館者となった埼玉の女子高生、南和歌菜さん=右から3人目、左から大久保純一館長、南さんの母・祐子さん、墨田区文化振興財団・澁谷哲一理事長、1人おいて山本享区長、南さんの父・知宏さん)

館長 北斎は一般的には風景画家としての方が有名で、どちらかというとリアリズムではない絵師。リアリズムと言えば、風景は歌川広重で、北斎はむしろ自分の造形理念に従って描いていた。リアリズムは二の次だと。ただ、人物の描写は、今おっしゃったように、非常に細部にわたって的確に描いている。

サカクラ 北斎はたぶん『北斎漫画』を書き続けている時に途中から、この世の中のことをある程度きちんと自分が残さないといけないという使命感があったのかなと思います。ところで、館長にとって北斎はどんな存在でしょう。

館長 難しい人だと思いますね。浮世絵師のなかで一番、ある意味で文字情報がたくさん残っている人。『葛飾北斎伝』という伝記も書かれていて、生きている時の北斎を知っている人からの聞き書きで、情報は非常に多い。喜多川歌麿なんかはほとんどない。東洲斎写楽もない。広重は北斎と同時代人ですが、圧倒的に少ない。北斎は情報量が多いのにプラスの面とマイナスの面があって、『北斎漫画』に出てくる面白いエピソードにちょっと引っ張られすぎている部分もあると思います。私は美術史という分野が専門ですが、作品そのものを見て考えるのが基本だと思うのですが、どうしても『葛飾北斎伝』の中に出てくる興味深いエピソードに人々の関心は行きがちという、逆の意味での難しさはあると思います。あと、いわゆる浮世絵師と言われていますけども、彼が現存していた時代の中で北斎がどのように受け止められていたかというと、他の浮世絵師とは別格の存在だったようなのです。ちょっとどころじゃない高みにいる人というか。特に、北斎の晩年になると、普通の浮世絵師の稼ぎ場になっているようなジャンルはほとんど手掛けなくなっている。いわゆる権威の高い絵師にシフトしていくことがあった。

サカクラ 北斎自身が自分でその高みを目指したから変わっていったのでしょうか。

館長 難しいところでしょうね。周りが彼を特別な存在にしてしまったっていうところもある。滝沢馬琴の手紙の中に「北斎は気難しい」と出てきますけど、馬琴も気難しい。気難しい人から見て気難しいっていうのは、相当気難しいのかなと。 馬琴自体が一時、北斎と一緒に仕事していましたが、少し遠ざけるみたいなところもあって、原稿料が高かったこともありますが、周りの人たちがやっぱり北斎を特別に見ていた。それも実力だったからなのですが。

サカクラ 私の中では、北斎は晩年、何か使命感に駆られて物を残すっていうことに集中して、自分の地位向上にはあまり興味なかったのかもという感じがあります。

館長 少なくとも金銭的なものには興味がほとんどなかったみたいですね。いわゆる画料は他の浮世絵師に比べたら高い人でしたし、相当な仕事の依頼があったと思いますが、基本的に細かい仕事、小さいものは受けません、というような張り紙していたようです。仕事を選んでいた人で、それだけたくさんの依頼があって、しかも画料が高ければ、その気になれば相当な蓄財ができたとは思いますが、ほとんど裏長屋みたいなところで一生暮らしていますので、金銭的なものに対する関心はなくて、絵を描くことだけが…ただそれもよく言われる話で難しいところです。作家としてちょっと活躍した時がありますので。いわゆる小説家として。文筆、文才もそれなりにあったと思いますが、基本的には画道一筋で、いわゆる俗世間的なものには疎かったのかなと。

サカクラ そのお話を伺って、ここもまた私にちょっと似ているなと。この北斎の舞台を作るにあたって、私が世の中に出て有名になりたいというよりは、最近またとんでもない戦争みたいなものが起きてしまってカオスになっている時に、日本の精神性みたいなものって世界がまとまっていく上で必要になるのではないかという考えになってからは、俺を見てくれっていう気持ちよりは、こういう素晴らしいものを届けて、関係が修復していかないかなと思い始めたりしています。北斎も自分の絵を見てくれとか、お金が欲しいとか、売れたいというところよりも違う方向に途中から行っているのではないかなと。今のお話を伺って、よりこの舞台に対する思いがぎゅっと引き締まった気がします。

館長 北斎を共有する関心の軸として、国境を越えて人と人とのつながりができていくといいですね。話は変わりますが、ブルガリアのソフィア大学で公演されたのですね。私も一昨年、ソフィア大学に行って、ナショナルギャラリーで講演しましたが、ものすごい参加者の数だったと主催者の方から伺いました。やはり浮世絵の持つ人気は、東欧でもすごいのだと。日本を代表する美術ですし、特に北斎は日本のアイコンになっています。

サカクラ そうですね。日本のアイコンとして皆さん認知しているのはすごく感じます。


葛飾北斎の三女・応為でつながる落語家・林家あんこ(左)とコンテンポラリーダンサー・加藤花鈴との“異色対談”が実現
舞台では葛飾北斎の三女・お栄こと応為をコンテンポラリーダンサー・加藤花鈴㊨が演じる。公演を前に、創作落語「北斎の娘」を手掛ける墨田区出身の落語家・林家あんことの対談も実現

館長 今回の舞台はまったく言葉や字幕もないとか。

サカクラ 言葉が介在しないでストーリーが成り立つのかどうか、すごく心配でした。ただ、お客さんが泣いてくださったりして、伝わっているのだと。北斎と北斎の奥さん、娘のお栄によるストーリーですが、何もインフォメーションがないまま各国で行うと、終わった後に「娘役の女の子はアートの精ですよね」と言われて、これは逆に面白いなと。

館長 案外、当たっていたりする。

サカクラ そうなんです。お栄は本当に父親の北斎をサポートして、ライバル心みたいなものもありつつ、やっぱり画家として尊敬している。娘は親父のことを親父として愛しているっていうのが見て取れるので、絵の精が出てくる解釈もありだと思います。

館長 娘であり、絵の精でもあるという二重の解釈が面白い。

サカクラ そうですね。大久保館長とはもっとお話したいです。時間も限られているので残念ですが、またこういう機会があれば嬉しいです。やっぱり北斎に精通していらっしゃるし、観点が全然違う。大変勉強になりました。本日はありがとうございました。
 


◆「The Life of HOKUSAI」公式サイト https://napposunited.com/hokusai_stage/

 

舞台「The Life of HOKUSAI」公演を前に対談が実現 舞台「The Life of HOKUSAI」公演を前に実現した対談は和やかに、白熱の時間に

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