版画イラストレーター・森英二郎さん】第14号コラム
  カフェからサックスの音が

2026年9月16日12時00分 スポーツ報知

 すみだ地域コミュニティー季刊紙「すみだ報知」第14号(2026年9月号)は「音楽&芸術のまち」大特集です。約4か月にわたる「すみだ五彩の芸術祭」が開幕。すみだのまちの至るところが舞台となって、アートで彩られます。10月17日(土)、18日(日)の「すみだストリートジャズフェスティバル」(通称すみだジャズ)も連携企画として区内27会場で開催。優しくやわらかな音色が聞こえてくるような版画イラストレーター・森英二郎さんの描き下ろしに、すみだのまちから世界へと羽ばたいた元メジャーリーガー・高橋尚成さんのインタビューを掲載した今号も、すみだの魅力と愛たっぷり、地域のスポーツ、文化・芸術情報をお伝えします!
 

森英二郎さんの描き下ろし版画イラスト原画 森英二郎さんの描き下ろし版画イラスト原画
■カフェからサックスの音が

 家から歩いて10分ほどのところに「鳩の街」というかわいい名前の商店街があります。いくつかある僕の散歩コースのひとつで、お気に入りの場所です。この街は空襲で焼け出された玉の井(現・東向島)の人たちが戦後に移ってきて出来た私娼街(いわゆる赤線、と言われても僕の世代でも知らない)だったところです。ここを舞台に作家の吉行淳之介や永井荷風などが作品を書いています。

 今でも狭い商店街には提灯(ちょうちん)がぶら下がっていて、お惣菜店や魚屋さんや美容室、若い人が古い建物を改装して始めたカフェなど小さな店が並んでいます。シャッターを下ろしているお店もありますが、路地をちょっと入って見ると娼家風の建物など当時の面影を発見することができます。

 むかしむかし、といっても昭和30年代の頃、この街のアパートの2階に体は弱いけど可愛い女の子が住んでいました。女の子のお父さんは浅草のキャバレーのバンドのトランペッターで、お母さんは踊り子でした。夕方、お父さんとお母さんが仕事に出かけてしまうと女の子はいつもひとりで遊んでいました。

 女の子は夜、ひとりでさびしくなると部屋の窓を開けて大きな声で歌を唄っていました。その歌はとっても上手だったので街のみんなの人気者でした。女の子は大きくなったら歌手になりたいと思っていました。数年後、女の子は人気歌手になり俳優にもなってテレビに出るようになり幸せに暮らしました。

 歌手で俳優の木の実ナナさんは生まれも育ちも鳩の街で、お父さんは浅草のキャバレーのトランペッターでお母さんはダンサーだったというのを何かで読んで、カッコええなぁーと思ってこんな文を書きました。

 ある時、散歩の途中でたぶん昭和の初め頃の建物を改装した小さなカフェの窓灯りからテナーサックスの音が聞こえてきました。どうやらジャズのライブをやっているみたいでした。

 「ジャズのまち・すみだ」です。

        (版画イラスト・文/森 英二郎)
 
 ◆森 英二郎(もり・えいじろう)1948年、京都府生まれ。大阪府育ち。本の装画、挿絵を中心に木版画でイラストレーションを描く版画イラストレーター。関西のタウン情報誌「プレイガイドジャーナル」の表紙イラスト、月刊誌「東京人」(都市出版)で作家・川本三郎氏の連載「荷風と東京」の挿絵などを担当。装画は絵本「おとうさんのうまれた うみべのまちへ」(福音館書店)、単行本「荷風と東京」(都市出版)など。『放浪・雪の夜』織田作之助傑作集」(新潮文庫)のカバー絵も担当。2010年12月から墨田区在住。「月1回ぐらいののんびりしたブログで、どうでもええ話とちっちゃい絵を描いてます」という「森英二郎のブログ・MEXOS―HANAXOS」も。

 

厩橋の西岸にあるトイレ むかしむかし、この街のアパート2階に可愛い女の子が住んでいました…

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